2010年2月 火の鳥

2010年1月末までの『ウーマン・イン・ホワイト』出演を終えた直後、2010年2月には、パク・トンハ史上最大の会心の一作、わらび座ミュージカル『火の鳥-鳳凰編-』に、再々度客演として出演しました。
今一度、新宿文化センター大ホールで、公演の大千秋楽を飾る4日間。 トンハさん自身が2009年12月から2010年1月末まで『ウーマン・イン・ホワイト』稽古・出演を続けていただけではなく、わらび座が2月中旬まで同作の一般公演を続けていたため、充分な通し稽古もできず、客演にはきつい状況での出演でした。
そのような状況であったにも関わらず、華のある演技、主演の貫禄や手堅い歌唱は充分すぎるほど素晴らしいものではあり、わらび座ファンの評価としても初演時より好意的に受け入れられ、別役を経て得た経験や成長による俳優としての底力の充実を感じました。
韓国からミュージカル関係者が多く来日して観劇していた他、NHKのカメラも入り録画していたため、今後より多くのかたに俳優パク・トンハの仕事を見てもらえる場面が増えることと期待されます。
 
しかし、2008年多摩でのプレビュー公演から2010年新宿でのファイナル公演まで19公演を観続けてきた私には、粗が多少目に付いたことは否めません。
この作品には、わらび座キャスト版我王用の楽譜とは別に、トンハさんの高い歌唱力を生かすため甲斐先生がアレンジした楽譜があるそうなのですが、今回は随所で不安定さを露呈していました。
特に、初演のパク我王の魅せどころであった『永遠の四重奏』のロングトーンは封印した上、『銅の里』『対決』などでの高音ファルセットを出し切れずに裏返してしまい、千秋楽にはとうとうわらび座キャスト版の比較的音域の狭いメロディーに切り替えていたのは、作品を見せるという意味では真っ当な選択ではあったのですが、我王の内面の表現につなげての変更でなかったので、ファンとしては非常に残念でした。
 
また、速魚を演じた相手役の椿千代が、同役を全国公演で半年程度演じてきたにも関わらず役が求める表現に届かぬまま中途半端に演じており、全体と芝居が噛み合っていませんでした。
特に台詞の間合いが早すぎること、シーンの転換時に無駄な動きがあり芝居を散漫にさせていたこと、歌にビブラートをかけすぎている点などは速魚役に全く合っていませんでした。
日を重ねるごとに多少の改善は見られたものの、やはり、ここは最高の相手役・碓井涼子の配役を求めたいところでした。
 
5人の我王、3人のブチ、3人の速魚。それぞれ素晴らしい特徴がありました。作品自体も素晴らしい完成度でした。
それ故に、『火の鳥』リピーターとしては、そしてパク・トンハのファンとしては、ファイナル公演にはどの我王よりも高い表現を求めてしまっていた部分があったように思います。
しかし、全国から集まった『火の鳥』ファン、わらび座ファン、パク・トン派、ミュージカルファンでごった返し、大盛況となったファイナル公演でした。
  
<追記>
もうひとつ残念なことを指摘せざるを得ません。観客のマナーの悪さです。
この2年間、わらび座の公演中に私語をする大人には何度も辟易とさせられました。
周囲に座っている観客に迷惑なのはもちろん、舞台の上で演じている俳優さんにも大変失礼なことです。
自分がチケットを持っていない席に座るのは泥棒です。空いているからと勝手に移動してはいけません。移動したい場合は、必ずその座席が売れ残っていることを主催者に確認し許可を受けるのが常識です。
あまりにも他人の存在を軽視しているマナー違反の観客が、作品や劇団のクオリティに反比例しているのが非常に残念です。特に今回は、私自身が最前列のチケットを持っていたにも関わらず、勝手に知らないオバサンに座席に座られ、所定の座席に座れなかったことを記載しておきます。(終演直後に座席泥棒のオバサンに確認したところ、チケットを持っておらず、座席泥棒を認めたので、ダブルブッキングではありません。)

公演詳細

<新宿ファイナル公演>
●開催日時:2010年2月18日(木)〜2月21日(日)
2/18 19:00開演
2/19 19:00開演
2/20 14:00、19:00開演
2/21 14:00開演

●開催場所:新宿文化センター大ホール
●料金:全席指定 S席7,000円 A席6,000円

原作:手塚治虫
演出:栗山民也
脚本:齋藤雅文
音楽:甲斐正人
美術:妹尾河童
協賛:手塚プロダクション・角川書店
企画制作:劇団わらび座

我王 パク・トンハ(東宝芸能)
茜丸 戎本 みろ
速魚 椿 千代
ブチ 今泉 由香(M.T.プロジェクト)
橘諸兄 岡村 雄三
藤原仲麻呂 安達 和平
吉備真備 平野 進一
良弁 本間 識章(ヴォーカル株式会社)
若者 荒川 洋
若者 長掛 憲司
若者 三重野 葵
若者 上野 哲也
若者 尾樽部 和大
若者 内田 勝之(オフィスPAC)
若者 森山 晶之(劇団M.M.C)
ミカド 飯野 裕子
川の精 遠藤 浩子
川の精 上野 まゆ
川の精 小林 すず
火の鳥(声) 新妻 聖子